講師
西村 木綿
Yuu NISHIMURA
- 専門:
- 歴史学(近現代東欧ユダヤ史、ポーランド・ユダヤ関係史)
探求の出発点は、大学1年次に受講したパレスチナ/イスラエル問題の授業に衝撃を受けたこと。京都大学大学院人間・環境学研究科に進学し、イスラエル建国以前の東欧のユダヤ人の政治運動を研究する。ニューヨーク市立大学、ワルシャワ大学(ポーランド)に留学。日本学術振興特別研究員を経て、2021年に名古屋外国語大学に着任。
メッセージ
何に興味がある? 将来何になりたい? 今は分からなくても大丈夫。大学に入ると学びの幅が増え、自分の世界がぐんと広がります。講義で、サークルで、留学や海外旅行で、想像もしなかった出会いがあります。いろんな刺激を受けながら関心の赴くまま学びを進めると、何に心を動かされ、何を大事だと思う「自分」なのか、その「核」のようなものが見えてきます。新しい世界で出会う自分は、今まで知らなかった自分かもしれない。そこから道がひらけてきます。
グローバル共生学科ならではの学びとは?
グローバル共生学科は、学生と教員の距離が近く、教員は身近な相談相手として、学生たちが「次の一歩」を踏み出すのを支えます。これまでの学生たちも多くの挑戦をしてきました。起業した人、社会問題や自身のルーツに関わる問題意識から仲間と一緒に活動を立ち上げた人、日本の田舎で暮らしながら地域活性化のための様々な取り組みを行った人、大学院進学を目指す人、などなど。学科には、地域創生科目など、挑戦のきっかけとなる体験ができるプログラムも充実しています。
専門分野
近現代東欧ユダヤ史、ポーランド・ユダヤ関係史。
第二次世界大戦前のヨーロッパで最も多くのユダヤ系住民を擁したポーランドをフィールドに、ユダヤ人の文化(イディッシュ語文化)や社会、政治運動について研究してきました。ヨーロッパでのユダヤ人と非ユダヤ人の「共生」の困難は、ユダヤ人の自前の国家建設を求めるシオニズム運動を生み、第二次世界大戦中のホロコースト(ナチ・ドイツによるユダヤ人大量虐殺)は、現実のユダヤ人国家としてのイスラエル誕生の契機となりました。
大学院生以来の私の研究対象は、そうした歴史の中にあって反シオニズムを唱え、いま住んでいる国家の中での多民族の共存を追求した「ブンド」と呼ばれるユダヤ人の大衆政党でした。
複数の民族が共存することを目指したブンドの構想は実現せず、シオニズムが生んだイスラエルはパレスチナ人の隔離と迫害を繰り返しています。なぜ、歴史はこのように進んだのでしょうか。大きく言えばこのような「問い」から、現在は、「共生」の構想を阻んだ戦前のポーランド人とユダヤ人の関係について、研究しています。
最近では、戦後の国際社会がホロコーストを記憶に留めるべく勢力的に取り組む一方で、ホロコースト犠牲者の子孫の国であるイスラエルによるパレスチナ人の迫害・虐殺を止めることができていないという矛盾に関心を持ち、この問題についても考察を進めています。
学科で教えていること
担当講義に共通するテーマは、マジョリティ(多数派/力をもつ集団)とマイノリティ(少数派/力をもたない集団)の歴史的関係の考察です。現代社会における差別や格差、集団間の摩擦や紛争といった問題を考えていく上での、歴史的な視座を得ることを目標としています。
「グローバルヒストリー」では、「人種」概念と人種主義のグローバルな展開を辿り、現代社会に残る影響について学びます。
「エリアスタディーズ応用D(ヨーロッパ)」では、第二次世界大戦前のヨーロッパにおけるユダヤ人(マイノリティ)と非ユダヤ人の関係を辿ります。現代のパレスチナ/イスラエル問題の歴史的背景を学ぶことにも繋がります。
「ナショナリズムと共生社会」では、諸国家のナショナリズム(および帝国主義)が衝突して起こった第二次世界大戦以後の世界を扱います。第二次世界大戦への反省から出発した現代社会で、なおもナショナリズムが紛争の火種となる状況を「戦争の記憶」という視点から考察します。
担当科目
1年生対象
- アカデミックスキルズ
- グローバルヒストリー
2年生以上対象
- 共生の社会心理
3・4年生対象
- エリアスタディーズ応用D(ヨーロッパ)
- ナショナリズムと共生社会
- 複言語特殊講義(ポーランド語)
地域創生科目
担当するゼミのテーマ
私が最も得意とする分野は第二次世界大戦前のポーランドのユダヤ人研究ですが、ゼミではこれに関わらず、主にヨーロッパをフィールドに、マジョリティとマイノリティの関係や、集団間の摩擦と共生にかかわるテーマを歴史学の視点から広く扱っています。
3年次にはテーマを設定して共通の課題図書を輪読します。2024年度から取り組んでいるテーマは「第二次世界大戦の記憶と共生」です。第二次世界大戦について語るとき、なぜ人々の認識は衝突するのでしょうか。戦争に関わった諸国家が、博物館、記念碑、式典、映画、小説、教科書などを通じ、どのように戦争を「記憶」しているのか。その記憶のあり方がどのように国家間や人々の共生を促し、あるいは妨げているのかを考えます。
4年次には各自自由にテーマを設定して、卒業研究に取り組みます。
過去のテーマの例
以下は2023年度に卒業した学生が取り組んだテーマの一部です。
- 宗教的思想が与える米国の対イスラエル政策
- 日本とドイツの戦後補償の比較
- ドイツにおける「歓迎の文化」と右翼ポピュリスト政党の台頭
- ドイツが目指す定住外国人の統合とその問題点
- ハンガリーにおける民主主義の後退とその原因
- ハンガリーにおける難民政策とポピュリズムの関係
- 「悪の陳腐さ」とアイヒマンの人間性の関係
- 日本におけるLGBTQ+の権利保障と法整備
主な学術論文
- 「誰が、なぜ、ポーランドのユダヤ史を書くのか」『ユダヤ・イスラエル研究 』38号、2024年12月刊行予定
- (エッセイ)「ホロコーストの〈記憶〉とパレスチナ人ジェノサイドの併存を考える」『立命館言語文化研究』36号2巻、2024年刊行予定
- (評論)「第二次世界大戦前のクラクフのユダヤ人社会:ガリツィア・ユダヤ博物館の巡回展によせて」『Artes MUNDI』第7号、2022年
主な著書
- Yuu Nishimura and Mari Nomura eds., Polish-Jewish Relations and Anti-Semitism in Interwar Poland: Proceedings of the International Seminar, Kanazawa University, 2018.
- Yuu Nishimura and Mari Nomura eds., Yiddishism and Creation of the Yiddish Nation: Proceedings of the International Workshop, Kanazawa University, 2017.
- 渡辺克義編『ポーランドの歴史を知るための55章』明石書店、2020年(第22章「ユダヤ人政治運動」、第23章「反ユダヤ主義」を担当)
- ユダヤ文化事典編集委員会編『ユダヤ文化事典』丸善出版社、近刊(「イディッシズム」「世俗勢力の台頭」「ブンド」の項目を担当)
最も影響を受けた〇〇
最も影響を受けた〇〇って、どれだけ考えても思いつかなくて困ってしまうのですが、今の自分をつくるのに最も大切だった時間を振り返ってみると、やはり、大学の学部生時代かと思います。友人・知人に誘われるまま、大学を飛び出して、日本や世界の問題の場に赴き(イラクへと自衛隊が飛び立つ基地へ、日雇い労働者の町のお祭りへ、野宿者の見守り活動へ)、社会活動に参加し(身体障害者の介護、これは長くやりました)、芸術作品を楽しみ、海外に一人旅に行きました。好奇心旺盛なわりに長続きしない性格のため、どれも中途半端に終わったのが大変恥ずかしいのですが、このときの人との出会いや経験が、今の自分の根幹をつくったように思います。