准教授

地田 徹朗

Tetsuro CHIDA

専門:
ソ連史、中央アジア地域研究

群馬県伊勢崎市生まれ。学部は東京外国語大学ロシア語専攻、大学院は東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻で学びました。カザフスタンとロシアに研究留学の経験があり、在トルクメニスタン日本国大使館で専門調査員としての勤務経験もあります。前任校は北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターで、「境界研究ユニット」というセクションの助教をしていました。

メッセージ

グローバル共生学科に関心をもっていただきありがとうございます。日本で、そして世界で起きている様々なことに「クエスチョン」を抱き、それを解消するために自分から日本や世界へ動こうとするアクティブな学生が多い学科です。「そんなのムリ」と思っていても大丈夫。先生方は皆さんの「知りたい!」を全力でバックアップしますし、そのためのプログラムも豊富にあります。

多様性溢れるキャンパスでアクティブに学びたい、アクティブな自分になりたい皆さんを歓迎します!

グローバル共生学科ならではの学びとは?

日本や世界で起きていることを、その背景となる文脈を深掘りし、世界各地がもつ「ロジック」を多角的かつマルチ・スケール(複眼的)な視座から学ぶことで、世界の動きを立体的に見ることができるようになる、ということがグローバル共生学科での学びの特徴だと思います。

この世界各地の「ロジック」を知らずして「共生」もあり得ません。教室内での充実した授業と、教室外でのアクティブな学びを通じて、多様性溢れる世界での「共生」のあり方を共に学びましょう。

専門分野

旧ソ連領中央アジア、「スタン」がつく国々のことを主に研究しています。皆さんにとってあまり馴染みのない地域だと思うのですが、中国・ロシア・イラン・トルコ・ヨーロッパに挟まれ、これからの世界の行方を考える上で非常に重要な地理的位置にある国々だと言えます。

当初はソ連時代の政治史や民族問題を研究していましたが、2001年のカザフスタン留学中の一つの出会いがきっかけとなって、2005年から「20世紀最悪の環境破壊」とも呼ばれた、カザフスタンとウズベキスタンとに跨がって位置するアラル海の環境問題と、そこで生じた災害からの復興プロセスについて、開発史・環境史的な観点から研究するようになりました。

2013年からは現場での発見を大切にすべくフィールドワーク手法も取り入れており、アラル海の環境破壊の現場に定期的に足を運んできました。そのフィールドでの発見から、かつての遊牧民であるカザフの牧畜について興味を抱くようになりました。そして現在は、アラル海研究から派生して、その地理的スケールを「流域」にまで拡げた国際河川(2カ国以上に跨がって流れる河川)管理とその国際比較についての研究に歩を進めつつあります。

それ以外にも、トルクメニスタンの現代政治、ロシアによるウクライナ侵攻による中央アジア諸国への影響など、多様な内容の研究成果を「生粋の地域研究者」として発表してきました。

学科で教えていること

学科では、地域創生科目(基礎・応用)でのlocalから始まって、比較政治論(コース科目)でのnational、エリアスタディーズ応用B(東アジア・ユーラシア)でregional、そして、国際ガバナンス演習B(環境ガバナンス)でのglobalと、あらゆる地理的スケールから日本と世界の過去と現在に迫る授業を展開しています。そして、人と人、国と国、地域と地域の狭間や境界から、日本や世界で起きている諸現象を照射する、境界学という授業も担当することになりました。また、1年2期のAcademic Skillsも担当しており、こうしたマルチ・スケールかつ多角的なものの見方を学生の皆さんには養ってもらいます。

担当科目

  • 国際ガバナンスコース基礎 境界学
  • エリアスタディーズ応用B(東アジア・ユーラシア)
  • 国際ガバナンス演習B(環境ガバナンス)
  • 地域創生科目(実践) グローカルガバナンス 北海道プログラム

担当するゼミのテーマ

皆さんは「境界/ボーダー」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか?

国境とかあるいは県や市町村の境界、あるいは土地の区画といった物理的な境界を思い浮かべる人もいれば、民族とかジェンダーとか宗教といった社会的な意味で人びとを隔てる・区分する空間的な境界を思い浮かべる人もいるでしょう。地田ゼミでは、ロシアなど旧ソ連諸国を中心とするユーラシア地域とその周辺地域を対象に、「境界/ボーダー」について検討するゼミを展開しています。

ゼミそのもののアクティビティは、ゼミ参加学生が関心をもつテーマの学術書の輪読と、個人研究に関連する学術書のブックレビュー、個人研究発表、卒業論文あるいは卒業研究レポートの執筆という極めてオーソドックスなものですが、研究テーマを学生自身で絞り込み、先行研究を踏まえた上で、教員やゼミの同僚たちとのフラットな議論を通じて、中身が濃く構成がしっかりしたある程度のボリュームがある論文を書き上げるということを重視しています。ゼミ生の卒業研究は毎年、ゼミ論集を刊行しています。

過去の卒論・レポートの例

先輩たちの卒業論文・卒業研究レポートのタイトルをいくつか紹介します:

  • 「ロシアにおける原子力発電の動向:原子力開発のビジネスとしての可能性」
  • 「日本バレエの発展とロシアバレエからの影響:日本のバレエの今とこれから」
  • 「基督教大国中国における宗教政策の変遷:共産党下の管理と『宗教中国化』」
  • 「モンゴル国における遊牧システムの変化と持続可能性」
  • 「特定技能制度の導入に伴うベトナム人労働者:東海地方での就労事例をもとに」
  • 「行政と地域住民間協働による内発的なまちづくりの分析:福岡県宗像市のコミュニティ運営協議会を例に」
  • 「地域社会『希薄化』の時代の『居場所』とコミュニティ構築:地方都市のコミュニティカフェで生まれる交流を手がかりにして」

物理的な境界を跨ぐような事象、あるいは、民族・宗教・コミュニティといった社会的な境界に関する事象を扱った研究を先輩たちがしてきたことが分かると思います。

ゼミでの特徴ある学びとしては、毎年2月末に実施する、日本の境界地域(これまでは北海道)でのゼミ合宿があります。北海道稚内市と紋別市を訪れ、日本の境界地域の実情についてレクチャーや実地調査を通じて学びます。参加学生は現地での食やアクティビティを楽しみつつ、現地でもゼミを組織して研究発表を行います。コメンテーターとしてお招きする現地の大学や高校の先生などの前で研究報告することで、参加学生は個人研究発表についてのセカンドオピニンを得て、卒業研究に役立てることになります。就職活動が本格的に解禁される直前の時期に、卒業研究について真剣に意識するという意味合いもあります。4年生は、大学での学びの総仕上げとしてゼミ合宿に参加する学生もいます。

総じて、教室の中では真面目に、教室を離れると楽しくをモットーとするゼミです。「真面目に大学らしいクリエイティブな勉強をしたい」という学生にはピッタリなゼミだと自負しています。

紋別高校との合同ゼミ 紋別市立博物館にて 普段のゼミと同じく真面目モードです
稚内市役所で北の国境の街の現状についてレクチャーを受ける様子
稚内海上保安部巡視船りしり 北の国警備の実態についてお話を伺いました
紋別観光の目玉、流氷砕氷船ガリンコ号III IMERUの前で記念撮影。楽しむのも大事!

主な学術論文

  • 「ペレストロイカと環境問題:『アラル海問題』をめぐるポリティクス」『国際政治』201号、2020年
  • 「旧ソ連の軛:ウクライナ戦争と中央アジア」『世界』952号、2022年

主な著書

  • 宇山智彦編著『ロシア革命とソ連の世紀(5) 越境する革命と民族』岩波書店、2017年(第7章「ブレジネフ期連邦構成共和国の政治と民族の問題:クルグズスタンを事例として」を執筆)
  • 宇山智彦、樋渡雅人編著『現代中央アジア:政治・経済・社会』日本評論社、2018年(第4章「環境問題と環境政策:ソ連時代の負の遺産と新たな課題」、7を執筆)
  • シンジルト、地田徹朗編著『牧畜を人文学する』名古屋外国語大学出版会、2021年

最も影響を受けた書籍

自分の研究スタイルを確立する上で影響を受けたのは、学部・大学院でお世話になった、高橋凊治先生の『民族の問題とペレストロイカ』だったり、塩川伸明先生の『現存した社会主義』だったりしたわけですが、純粋に「この本はすごい!」と感銘を受けたのは、20年前に読んだカール・マルクスの『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』です。

あの『資本論』のマルクスですが、私は別に「マルクス主義者」ではありません。この本は、マルクスが同時代を生きていた1848年にフランス第二共和制が成立してから、大統領ルイ・ナポレオンが1851年にクーデターを起こして国民議会から権力を奪うまでの政治過程を分析したものです。マルクスは、階級闘争の様相とその政治への影響、ルンペン・プロレタリアートの役割、議会制民主主義の問題点といった論点を提示していますが、私はなによりも同時代史の著作としての筆致の鮮やかさに感銘を受けました。頭の中に当時のフランス社会・政治が画で浮かんでくるような感覚をおぼえたからです。

この本を読んだ当時は、ソ連史研究、つまり過去のことを歴史的に研究することを志していたわけですが、その後、アラル海問題を中心に同時代史的な研究にも取り組むことになります。もちろん、階級闘争史観のような単純な因果関係のみで歴史を書くことは御法度なわけですが、マルクスによる鮮やかな同時代史の描き方に私もできるだけ近づきたい、そう思いながら今も研究をつづけています。

私は大月書店の国民文庫版(絶版)で読みましたが、最近、講談社学術文庫でも新訳が出ています。社会主義思想史やヨーロッパ史に興味がある人はもちろんですが、政治一般やジャーナリズムに興味がある人にもお勧めの一冊です。